本物と未本物の学び(かつての師水木一郎さんの訃報にて初めて分かったこと)

コラム(104) #life #ボイストレーニング

初めてのボイストレーナーだった水木一郎さんの元を去ったのは多分30年近く前のこと。
以来お目にかかっておらず、連絡すら全くしていませんでした。
はっきりと袂を別ったわけではありません。
わたしの中で一番近い言葉は「逃げた」
今も、モヤモヤする思いと共に最後にお会いした場面が蘇ります。

当時、水木さんは渋谷の道玄坂に事務所兼レッスン室を持っていました。
狭めのマンションの一室に防音室を設置して、電子ピアノを入れていました。
小さな応接セットがあって、そこに水木さんと、水木さんの一番弟子で代理レッスンをしていたAさん(名前は覚えていません)がむっつり座っている。
そしてわたしの三人で話していました。
「レッスンを辞めたい」というわたしに対して、水木さんはもう少し考えてみないか、という提案をしてくださっていました。
わたしはレッスンを辞めたい理由について、ちゃんと話すつもりで臨んでいましたが、予想外にAさんがいたため上手く話せなくなっていました。
直接の原因がAさんだったから。

その5年前、本気でボイストレーナーを探していたわたしはほとほと困っていました。
ピアノ弾き語りの仕事をしていましたが、発声についてはレッスンを受けたことがなく、独学の限界を感じていたんです。
当時は、ネットもなく情報がほとんどなかったです。
アナログ紙で探すとボイストレーニング教室みたいなものはあって見学もしましたが、なんだか違う。
友人の友人だった水木さんがボイストレーニングをしているのは知っていました。
でも正直あまり教わりたくなかったんですね^^;
何度か会ったことがある水木さんが苦手でした。
ちゃんと話したことがあるわけではなかったんですが、まーなんとなく遊び人な印象で。
そんな雰囲気を纏っているように当時のわたしには見えました。
いよいよボイストレーナー探しが暗礁に乗り上げてしまって、水木さんにお願いする覚悟をしました。
水木さんはかなりびっくりしていましたが、引き受けてくれました。
それから月に2〜4回、5年間通いました。

水木先生は熱意のあるボイストレーナーでした。
身体作り、呼吸法、発声法等自身の発声のために研究したものをメソッドにして、さらに日々研究していました。
毎回、何かしら新しいワークがありました。
わたしの悩みは、高い声が出ないことでした。
当時地声のみで歌っていました。
竹内まりやとかユーミンとかと同じ地声が強いタイプで、力んで頑張って高い声を出していました。
これを一番なんとかしたかった。
5年間のレッスンで声は出やすくなり、地声は少し高く出るようになりました。
しかし、解決はしませんでした。

今は理由がはっきりわかります。
わたしの問題は、地声➞裏声チェンジでした。
このタイプには、地声音域を広げるのではなく、裏声を鍛えて上手くチェンジできるように指導します。
水木先生はこのノウハウを持っていなかったんです。
当然だと思います。
男声には必要がないですから。
女声特有なんですね。
わたし以外にも女性の生徒がいましたが、皆プロを目指す元々発声に問題のない人たちでした。
そして当時、「チェンジの領域」という言葉や概念もあまり知られていませんでした。

この問題は解決しませんでした。
解決しなかったから、わたしは自分のために研究することになります。
倍音ボイスメソドは水木先生のメソッドと違います。
違うとずっと思っていました。
でも今、気づいたことがあります。

エッセンスは同じ!

声の楽器である身体を整えて、鍛えて、呼吸力を上げて発声に活かす。
これは水木先生から学んだものだったんです。
原点は水木先生だったんです。
細部、アプローチは違います。
身体の整え方、鍛え方、呼吸法等々わたし自身の研究によるものです。
ここも実は同じです。
自分の発声のために研究していた水木先生。
自分の発声のために、解決しない課題のために研究していたわたし。
先生が解決してくれていたらそれ以上掘り下げることはなかった。

そうか。。。

驚きました。

歌うことについては本当に深く学びました。
リズムの取り方、表現、気持ちの持ち方、プロとしての覚悟、意識等々
とても大切な学びでした。
そのままわたしの中に根付いてさらに大きく実をつけることができました。

レッスンが5年目に入った頃から水木先生は忙しくなっていました。
それまでは「アニメの帝王」という名を冠していてもまだメジャーに売れているっていうほどではなかったんですね。
代理レッスンも多くなり、最後の半年は一番弟子Aさんの代理レッスンのみとなっていました。
納得いかないレッスンが続いていました。
「なんか違うんだよね」
と言って腕組みをしたまま黙り込むAさん。
(なんか違うからレッスンに来てるのよ!!!)わたしの心の声。
ある日、自分でびっくりする言葉が口をついて出ました。
「あなたに教わっていると歌うのがイヤになります!」

そうか、もう嫌だったんだ。
辞め時だ、とわかりました。

もしかして、二ヶ月に一回とかでも水木先生に見てもらえるとわかっていたら違っていたのかな。
ずっと代理レッスンと決まっていたわけでなく、行くと今日も代理レッスンだった、という形だったんです。
忙しいのはわかる、でもレッスンを軽く見てると思ったのは事実です。

冒頭の最後の場面で、水木先生は「自分のレッスンの時間を作る」と言ってくださいました。
でも戻るつもりはありませんでした。
何かが終わってしまったんですね。
その気持ちを伝えたかった。
感情的になるのではなく、淡々粛々と伝える力があったらよかった、と心から思います。
本当の気持ちを言葉にする力が当時のわたしにはありませんでした。
「しばらくお休みしてまたお願いします」
そう言って逃げてしまいました。

お世話になった人の元を去るときの去り際は難しいものです。
この後、今度はわたしが教える立場として、たくさん体験しました。
去るのは仕方がないことです。
もう必要ない、もう違う、ということがあるのは当然です。
いつかそうなります。
その気持ちもよくわかります。
でも、わたし自身は逃げた自分に対してずっとモヤモヤが残っていました。
水木先生はそんなこときっと忘れているよ、と思うかもしれませんね。
忘れてくれていたらいいな、と思います。
でもね、案外忘れないものなんですよ。
わたしは覚えています。
教える時って、ちゃんと心を傾けて教えています。
どんな人にも。どんなに短時間でも。
忘れない人の方が多い気がします。

今となって思うのは、代理レッスンのAさんが悪いわけではない、ということ。
わたしは最初に水木一郎さんという「本物」に出会った。
水木一郎さんは、歌手としてボイストレーナーとして紛れもなく「本物」でした。
その後の偽物とは言わない、未本物、まだ20代で本物になっていない人に満足できるわけはなかったんです。
歌手として、ボイストレーナーとして「本物」に教わることが出来たから、今のわたしがある。
「本物」であろうとする今のわたしがいる。
訃報に接して初めてわかりました。

今やっと気づいたことですが。
水木先生は紛れもなく「師匠」でした。
水木先生に教わることがなければ、今のわたしはいない。
ご存命中に気づきたかった。
できればなんらかの形で伝えたかった。
あちらの世界で聞いてくださっていることを願います。

ありがとうございました。
心から感謝いたします。

ご冥福をお祈りいたします。

絶対語ることはないだろう、と思っていたことを今日は書きました。
わたし自身気づかなければならないことがあったんですね。
「本物」に触れるのは財産です。
「本物」に触れることなく「本物」になることはない、と思います。
「本物」に触れたわたしは「本物」であり続けようとすることができる。
水木スピリット受け取って「本物」である、と思っているわたしは、生徒さんに確実に「本物」のバトンを渡していきます。

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